夢でおやすみ

童話みたいなおはなし

猫の温泉

「猫がはいりにくる 温泉があるんだって」
そんな話を 10月なかごろ 先輩からきいた。

じゃあ 行ってみようか。
おうちをあけることなんて この10年 ほとんどなかったんだし。

そう思ったら あっというまに 有給の申請をしていて
ささっと旅行の手続きも 進んでしまって
まゆみさんは 10日後には その温泉のお湯につかっていました。

ちゃぽん。

まゆみさんの 指からおちるしずくが 湯気のなかに響きます。

静かだ。
静かすぎる。
ほんとに 猫が温泉になんて来るのかな。

ちゃぽん。

空は ほんの少しのあいだに どんどんたそがれてゆきます。

だって にしん は お風呂なんて 断固拒否してた。

灰色の毛皮の にしん。
今年の春 虹をわたってしまった 13歳の猫のおとこのこ。

最後に にしんがゆっくりと閉じていった瞳を思い出したら
まゆみさんの目に じわりと涙があふれました。

ちゃぽん。

まゆみさんの頬をつたって 涙のしずくが温泉におちました。

 

       ~・~・~・~

 

ふと 湯気のむこうに 気配を感じたような気がしました。

涙をぬぐいながら まゆみさんが そちらに目をむけると
さびねこが ちょぽん と お湯につかっていました。

うそでしょ。

思わず声をだしそうになったのを ぐっとこらえて
まゆみさんは 胸のなかでつぶやきました。

えー・・・ ほんとにー・・・。


・・・。


わー・・・ どうしよう・・・。


・・・。


わー・・・ 動いたらだめだよね・・・。


・・・。


ちょっと・・・ あつくなってきちゃったんだけどな・・・。


ちゃぽん。

と まゆみさんのひたいから ほほへながれた汗が 温泉におちます。

あたりは ますます 暗くなり うっすらと 星が輝きはじめました。

 

       ~・~・~・~